チームあすたま代表の竹内鉄平です。

トライアスロンにおける「ドラフティング問題」について、自分自身の経験と知識を元に意見を述べたいと思います。ドラフティング問題については、過去これまで多くの選手・指導者が様々な媒体で意見を提言してきていますが、トライアスロン歴史を振り返ってみても、これだけ物議を醸してきたルールはないと思います。また今現在でも、毎年どこのレースでもドラフティングが問題となっています。以前もHPに記事を書いたことがありますが、現在のトライアスロン事情を踏まえて、再度丁寧に考えてみることで、このスポーツの将来に少しでも役立てばと思います。

まずは「ドラフティング」の定義とルールの変遷の歴史を振り返ってみましょう。

時速40km/h以上で走行する自転車競技は「風」=「空気抵抗」との戦いであると言われます。「ドラフティング」とは、自転車競技において、前走者の後ろについて風よけにして走ることを言います。モータースポーツでは「スリップストリーム」と言われます。後ろにつくと、大体25~50%程度(車間による)の空気抵抗を削減することができると言われています。要は楽ができるのです。純粋な自転車競技(ロードレース)においては、ドラフティングをいかにうまく活用するかで勝負が決まります。

一方、トライアスロンは、元来「他者の力を借りない」=「個人の力で戦う」というスピリット(精神)を内包して生まれました。つまり「前走者を風よけを使う」=「他者の力を利用する」と捉えるわけです。トライアスロンのバイクパートにおいては、前走者と一定の距離を空けて走らなくてはいけない、というルールが生まれました。それがドラフティング禁止ルールです。

競技人口が少なく、レベルの差にも開きが合ったトライアスロン黎明期においては、ドラフティング禁止ルールは、そのスピリットと共に、大会運営上も違反した場合のペナルティを取りやすく、無理なく受けいられていたように思えます。トップレベルのレースにおいても、スイムで出遅れても、バイク・ランの得意な後半型の選手が逆転をするというシーンも多く見受けられました。しかし、競技人口が増えて、力が拮抗してくると、スイムを集団で上がり、より前半から速い展開に乗って行かないと、もはやバイク・ランでの逆転は不可能となってきました。

また、多くの大会で道路事情などから周回コースが採用されるようになり、よりコース上に選手が密集しやすい状況を生んだことで、ドラフティング違反者を取り締まるだけのマーシャルの数が足りなくなるようになりました。当初はドラフティング違反者には、「ストップ&ゴー」(バイク競技中に一度停止して、バイクを地面から持ち上げ、審判がGO!といったら再スタートする)ルールが適用されていましたが、現在は多くの大会でタイムペナルティ(ペナルティBOXに入る)方式がとられるようになっています。

その一方、1990年代に入り、トライアスロンをオリンピック競技にするために、観客から見てわかりやすいルールが必要となりました。ルール運用が難しく、完全に違反を取り締まれないのであれば、競技としての公平性が失われてしまいます。そこでITU(国際トライアスロン連合)はエリート選手のトライアスロンにドラフティング許可ルールを適用することを決めました。

 トライアスロンJAPAN(ランナーズ社) 1994年8月号より
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世界で初めてドラフティングが解禁されたレースは1994年のITUワールドカップ第2戦大阪ウォーターフロントトライアスロンでした。1994年はJTU(日本トライアスロン連合)が発足した年です。それまではエリートもドラフティング禁止ルールで行われていましたが、実際にそのルール変更が選手知らされたのは大会前日でした。当然選手からは賛否両論、競技説明会は騒然となったそうです。中には本来のトライアスロンではなくなるという理由で出場を取りやめた選手もいました。

ただ、ITUがドラフティング容認に進んだ最大の理由は「メディア」を意識した点でした。バイクパートでの集団走行は迫力があり、駆け引きもあり、テレビ映えするという点。集団のままランに入るので最後まで誰が勝つかわからないというスリル。それにより番組が作りやすくなりスポンサー収入が増え、トライアスロン界に莫大なマネーが流入してくるためです。現在オリンピックスポーツとしての確固たる地位を築いたトライアスロン。選手の思惑やトライアスロンの精神はどこにいった?という疑問はさておき、ITUのこの判断は正しかったというべきでしょう。

その一方で、トライアスロンの原点でもある「アイアンマン」シリーズ。そしてITUの管轄するレースにおいても、エイジ(一般)のレースにおいては、現在もドラフティングは禁止されています。こちらこそ、本来のスピリットを持った「ザ・トライアスロン」であるということができます。当然、宮古島や皆生、佐渡等の国内で開催されている主要ロング大会、エリートレースを除くすべての一般レースも同じくドラフティング禁止レースで開催されています。

以上のルールの変遷から、ドラフティング禁止のトライアスロンと、ドラフティング許可のエリートのトライアスロンは、同じトライアスロン競技であっても全くの別物と考えるべきであるということがわかると思います。エリートレースで許されているドラフティングが一般のレースでは許されないのは以上のような背景があるためです。

次回は、ドラフティング禁止レースにおいて、なぜドラフティングが起きるのか?またどうしたら回避できるのか?を、現在国内で適用されているドラフティング禁止ルールを詳しく解説しながら紐解いてみたいと思います。